ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質


サブプライム問題に端を発した世界金融危機において、誰もが疑問を持ちました。アメリカの金融工学は最先端で、徹底したリスク管理ができているはずなのに、なぜこれだけの破綻が起きたのか、と。

サブプライム問題が顕在化する前の2006年に出版されたのに、その理由である現代の金融工学や経済学の誤りを鮮やかに指摘するのが、デリバティブ・トレーダーにして研究者のナシーム・ニコラス・タレブによる「ブラック・スワン」です。

本書は、ただの経済書ではありません。むしろ、複雑化する社会における、人間の認知と思考の限界を示す、重要な哲学書です。この10年に読んだあらゆる本の中で最大の知的刺激に、まだ興奮が収まりません。
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追悼:マイケル・ジャクソン

子供の頃、フロリダのディズニー・ワールドに行きました。そこで観た、キャプテンEOのダンスと歌は今でも忘れられません。

今朝のニュースを聞いて、大きな喪失感とともに、誤解を恐れずに言えば、仕方がなかった、というような思いにとらわれました。マイケル・ジャクソン−−僕達の知っていたポップスター−−は、すでに大きすぎる成功によって殺されていたのかもしれません。世界が常に一挙手一投足に注目する、ということのストレスがどれくらいのものであったか、僕達凡人にはただ想像するしかありません。

今はただ、安らかに眠るのを祈るだけです。

スマートブックは理想のモバイルを実現するかもしれない

スマートブック(QualcommのPRサイトより)高校生の頃に、PDAの元祖であるNewton Message Padを使って以来、理想的なモバイルコンピュータを探しています。が、10年以上経った今でも、本当に理想的と言えるものには出会っていません。

とはいえ、スマートフォンやネットブックなどの、様々なモバイルコンピュータが出回るようになり、それらを使ううちに、モバイルコンピュータの理想型が見えてきたように思います。そして、どうやらQualcommらが提案するスマートブックが、それを具現化するかもしれません。

これまで使ってきたモバイルコンピュータを踏まえたうえで、なぜスマートブックが理想のモバイルコンピュータになり得る可能性があるのか、書いてみます。 Continue reading “スマートブックは理想のモバイルを実現するかもしれない”

日本建築学会 空間生命化デザインWG

春にワークショップを開催した日本建築学会 情報システム技術委員会 空間生命化デザインWGの、今年度の活動が始まりました。

宇宙エレベーターのアニリール・セルカン先生、竹中工務店の石川さん、パナソニックの山本さんというとても強力な新規メンバーを新たに加え、今後二年間活動していきます。

建築の計画、構造、環境といった諸側面に対して、生命のアナロジーとして取り入れ、イノベーションの実現を目指すという、ある種大それた取り組みです。参加している研究者および事業者は、それぞれのアプローチで技術が実現する未来の環境作りに取り組んでいます。

建築の側から技術にアプローチする良さは、技術が自己目的化せず、社会の現実的なニーズや必要性を常に忘れないことです。今はまだニッチなコミュニティですが、未来の環境を志す人達の一つのハブになってきています。 Continue reading “日本建築学会 空間生命化デザインWG”

信近エリ、という才能について

アルバム「hands」表現を志す人間にとって、多くの相手にそれを届けたいというのは自然な欲求。その欲求が、経済原理と結びつく中で、音楽ビジネスは成り立ってきました。

多くの相手に届けることを目的にするならば、いろいろの方法を取ることができます。まず、大きなレーベルと契約に漕ぎ着けなければならない。すでに知られたプロデューサーに付いてもらうことも有効かもしれないし、流通を押さえる必要もある。タイアップをするなど、プロモーションも大きく仕掛けたい。

でも、と思う。一リスナーとして、心を動かす音楽に触れる経験は、どう流通するかという問題とは、あまり関係がないと思う。むしろ、本当の才能というものは、そのような被いをまとわず、一人荒野を歩いていても、隠しきれず溢れ出てしまうようなものかもしれません。

そのような才能に出会うことは希有です。が、信近エリさんは、そんな一人のミュージシャンです。 Continue reading “信近エリ、という才能について”