持続的破壊的イノベーションの時代

自動車産業に続き、電機産業も不振を極めています。ソニーと東芝が大幅な営業赤字を計上する見通しとなりました。もちろん不況が直接的な原因でしょうが、総合電機メーカーは長らく構造的な問題を抱えており、それが不況によって露わになったという表現の方が適切でしょう。

総合電機メーカーの問題の一つは、以前のエントリー(電機メーカーがコンシューマ映像機器から撤退する日)で書いたように付加価値のあるユーザエクスペリエンスを生み出せていないことです。その理由を、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

単発のイノベーションでは不十分

前提として、優れたユーザエクスペリエンスは、日本のメーカーが得意とするような持続的イノベーションだけではなかなか実現できません。AppleのGUI、マルチタッチ、また任天堂の十字キー、コンソールのコントローラにおけるアナログジョイスティック、リモコンなどはいずれもそれまでのパラダイムを壊す破壊的イノベーションであり、そのユーザエクスペリエンスのプラットフォームの上に多くのコンテンツやサービスが生まれました。

経営学者のクレイトン・クリステンセンは、大企業が既存顧客のニーズを重視するあまり、破壊的なイノベーションを起こせない、あるいは対応しにくいという問題を取り上げ、「イノベーションのジレンマ」としてまとめました。

電機メーカーがイノベーションを起こしていないというわけではありません。単発の製品で、とても革新的なものは多くあります。しかし、今の時代においては単独のデザイン・技術はすぐに模倣され、その優位性は失われていきます。(例えば最近リリースされたタッチパネルケータイの数を見てみましょう。)

すると、単独のイノベーションでは差別化に不十分だということになります。

持続的破壊的イノベーター達

任天堂やAppleのような企業は、それぞれのプラットフォームに継続的にイノベーションを起こし続けることで、競争優位性を維持しているといえます。

Firefoxの開発者であるアザ・ラスキンは、ITメディアのインタビューで以下のように答えています:

これはブラウザに限ったことじゃないけれど、ソフトウェアの機能や特長は、長期的に見たときに優位性にはなりません。これらは時間が経てばコピーされて陳腐化してしまう。イノベーションの生まれ続ける環境を持つことが優位性になります。

またイノベーションを生み出す方法論で知られるデザインスタジオIDEOが、近年はイノベーションを生む組織マネジメントのコンサルに軸足を移しており、イノベーション組織の重要性が増していることが分かります。このような施策で有名なのは、労働時間の20%を自由な研究開発に充ててよいとするGoogleでしょう。

メーカーの採るべき道

企業のカルチャーというものは簡単に変わるものではないでしょうが、このようにメーカーやベンダーは破壊的イノベーションを持続的に起こす仕組みを構築していかない限り、製品の競争力が弱まることになります。

さらに、多数の製品をポートフォリオに持つ総合メーカーは、これまでの優位性の源泉だった規模が、逆に足かせになります。というのは、全ての製品に高い付加価値を持たせるのは難しいので、一部の製品がそうだったとしても、他の低付加価値な製品が業績の足を引っ張るためです。

このような状況の下では、iPod/iTunesやゲーム機のように、エコシステムを形成できる競争優位性のあるプラットホームを構築した上で、そのプラットホームの価値を向上させるような製品を戦略的に取捨選択してポートフォリオを構築していく必要があります。

参考リンク:
Life is Beautiful:ソニーの「イノベーションのジレンマ」について一言
PREWIRE:「キャズムのムーア氏、ソニーとアップルの違いとは・・・・」

3 thoughts on “持続的破壊的イノベーションの時代”

  1. 電機メーカーにいたので、よくわかります。
    研究室の中のポートフォリオも考えないと。。。。

  2. ご無沙汰しています。僕は外からの目線でしか議論できませんが、製品を見ていればわかることがありますね。

    研究室のポートフォリオ、面白い考え方ですね!OSOITEプロジェクトの方も進んでらっしゃいますでしょうか。

  3. プロジェクトでも、新たな展開が出てきました。場所も近いので、是非、遊びにいらしてください。

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