Palm Preのビデオを見て:iPhoneとの設計思想の違い

CESプレスイベントの模様
CESプレスイベントの模様

Palm Preは、今年のCESで最も反響を呼んだニュースの一つです。

前のエントリーで述べた通り、一見するとiPhoneに触発されて開発された製品のように見えます。デザインにおいては強く影響を受けています。

しかし、Palmのサイトで公開されているCESでの発表の模様を見ると、見た目のインタフェースの奥に、それぞれの出自に基づく異なった設計思想が見て取れます。

それは、iPhoneはやはりiPodから発展したコンテンツプレーヤであるのに対して、Palm PreはPDAから進化したウェブ時代の情報オーガナイザーだということです。

“webOS”に込められたメッセージ

PalmはそもそもPDAを作っており、スケジュール・アドレス・To-Do・メモといった個人情報管理を、効率的かつ統合的に行うことができました。

ところが、インターネットの普及に伴い、私達の扱う情報のうちウェブやメールが大きな割合を占めるようになってきました。そのために、スマートフォンが出現しました。が、当初のPalmのPDAで可能だったような、シームレスな情報管理は実現されていませんでした。

Palm Preに搭載される新しいweb OSは、

  • 常にネットワーク接続を前提とすること

および

  • HTML・CSS・Javascriptといったウェブ標準技術を用いて開発を行えること

を特徴としています。

OSの名前に示される通り、Palm Preはウェブとの高い親和性を実現しています。その目指すところは、ウェブの情報およびコミュニケーションを、シームレスに管理するオーガナイザーなのでしょう。

iPhoneでも多くのアプリはネットワーク接続を前提にしていますが、ネイティブ・アプリが作れるのでハードウェアの性能を活かしたハイクオリティなコンテンツの再生やゲームの開発に向いています。

情報の“Synergy”

このような位置付けを象徴するのが、カレンダーやメッセージのようなオンラインの様々なリソースを統合するPalm Synergy技術です。

私達のオンラインの活動やコミュニケーションは様々なサービスに断片化されており、それを自分との関係で再集約する必要性は日々高まっています。これはとても正しい進化の方向性です。

カード、通知システムによるシームレスなタスク管理

Palm Preは、このように様々なタスクを統合しようとしています。その場合、複数のタスクをスムーズな切り替えられることが求められます。(以前にアラン・ケイから、だからこそPCのマルチウィンドウ・システムを発明したと聞きました。)

iPhoneを含むこれまでのモバイル機器では、主にハードウェアリソースの問題から連続的なタスク切り替えは実現していませんでした。(例えばiPhoneを使っていてもっとも面倒臭いのは、複数のアプリを切り替えながら使ったり、アプリを使いながら音楽を操作したりすることです。)

webOSでは、複数のアプリの画面(カード)の同時表示、連続的な切り替え、およびアプリケーションの動作を中断しない通知システムによって、タスクを断ち切ることなく、連続的に複数のタスクを扱うことができます。

キーボードの有無

iPhoneは、全面タッチスクリーンによって、コンテンツ再生時に一切の余計なボタンなどなしに、全面を画面として使えるようになりました。この特徴は、写真やビデオ、ウェブ、およびゲームといった用途においてはアドバンテージとなっています。一方で個人情報管理やメールに使おうとすると、キー入力のしにくさがときにネックになります。iPhoneは明らかに入力よりも出力を優先した設計です。

ネットを“見る”だけでなく能動的なコミュニケーションに“使う”ためには、Palm Preのようにハードウェアキーボードがある方が有用です。

まとめ

表面的に共通するマルチタッチ・インタフェースによってかえって見えにくくなってしまっていますが、iPhoneとPalm Preは、このようにかなり異なるものを目指していることがわかります。

iPhoneは、iPodから発展して、コンテンツへのアクセスをオンラインに拡張するビューアとしてデザインされていることがよくわかります。おそらくAppleとしては、能動的な利用はMacで行ってほしいということなのでしょう。

それに対して、Palm Preはオンラインの情報およびコミュニケーションを、シームレスに、モバイルで完結して、一元的にオーガナイズするためにデザインされています。

僕はモバイルにあっても利用者の主体性をより重視しているという点で、Palm Preの考え方を好ましく感じました。この製品は、私達の情報との関わりの向かうべき方向を指し示しています。

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P.S.

それにしても、発表ではユーザインタフェース・エクスペリエンスの担当者が主にデモを行っています。このような企業は、シリコンバレーにもなかなかないでしょう。Palmが人間中心のデザインを重視していることがよくわかり、感銘を受けます。

2 thoughts on “Palm Preのビデオを見て:iPhoneとの設計思想の違い”

  1. 最近、記事がとっても充実してますね・・・。
    ページランクががんがんあがっている予感です。笑
    楽しみに読んでますよ?。

    Palmのやつとっても楽しみです。
    キーボードは必須だと思います。
    (WILLCOM03の唯一iPhoneより良い点w)

    >私達のオンラインの活動やコミュニケーションは様々なサービスに断片化

    この点は本当にそう思います。
    自分もそういうサービスを提供する業界に
    身をおいていますが、自社サービスで囲いこむ
    時代は終わったな・・・と感じています。

    データを人質にするか、もしくは、様々なサービスを
    集約する、端末・プラットフォームを持たない所は
    広告モデルにむしばまれて、収入を失ってぽしゃる、
    という予感が現実となってきているように思います。

    あと、すごい古い記事で、しかもこのエントリーと全然関係ないですが、こんな記事を見つけました。

    建築空間を劇的に本かさせるのはマテリアルしかない、
    といった話をしてい頃が懐かしく思われます。
    http://www.wired.com/science/discoveries/news/2004/01/61922
    (実物の写真が見てみたい・・・。)

  2. コメントありがとうです、モバイル業界も動きが多いし、今は書くゆとりがあるから。笑

    キーボード、やっぱり欲しいよねえ。コミュニケーション指向の強い日本のケータイユーザならなおのこと。

    >データを人質にするか、もしくは、様々なサービスを
    集約する、端末・プラットフォームを持たない所は
    広告モデルにむしばまれて、収入を失ってぽしゃる、
    という予感が現実となってきているように思います。

    これすごく大事な視点ですね。僕は以前から広告モデルで稼げるプレーヤにはそうそうなれないから、違った収益モデルを模索してるんですが。今度のバブル崩壊で、便益に見合った対価という当たり前のモデルへの回帰が起こりそうに思います。

    > あと、すごい古い記事で、しかもこのエントリーと全然関係ないですが、こんな記事を見つけました。

    これ、面白いですね。CESでもインテルがタッチスクリーンウォールのデモをしたよう。
    http://it.nikkei.co.jp/ces2009/news.aspx?n=MMIT01000013012009&landing=Next
    壁面というものがかなりの割合インフォーメーションサーフェイスになってくるという方向性は、正しいように感じます。

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