電機メーカーがコンシューマ映像機器から撤退する日

CATVセットトップボックス リモコン
CATVセットトップボックス リモコン

2011年のアナログ地上波停波を控え、家で使っていたケーブルテレビもデジタルへの切り替えが必要となりました。そこでハイビジョン録画機能付きのセットトップボックスに切り替えましたが、ソースの切り替え、3ケタのチャンネル入力、録画予約など、戸惑うことばかりです。

映像メディアがデジタル化することによって新たな利便性が期待されたにも関わらず、実際にはこれまで簡単だったことがより難しくなってしまった場合が多く、インタフェース研究者として残念でなりません。

テレビを見ることがなぜこんなに難しいのか

上の写真のように、デジタルテレビ、セットトップボックス、デジタル録画再生機等のリモコンの複雑さは度を越しています。またCATV、アンテナ、DVD等各種ソースの接続も複雑怪奇です。

増え続ける一方の映像ソースおよび周辺機能に対して、旧来のボタン式リモコンという操作のパラダイムが対応しきれなくなっていることは明らかです。まるで、グラフィカルインタフェースが発明されず、インターネットとマルチメディアの時代になってもMS-DOSのコマンドラインインタフェースを使い続けている悪夢の世界のようです。

設置工事の際に、サービスマンの方が、良かれと思って祖母の部屋のテレビにTVKやテレビ埼玉を設定し始めたので、慌てて止めました。祖母は1chと3chしか見ず、テレビの操作や設定が変わったら戸惑うだけです。祖母に必要なのは、デジタル多チャンネルではなくアナログ2チャンネルだというのに。

ビデオを撮って、それから?

家の古いDVカメラが壊れたので、HDのカメラも購入しました。ソニーのハードディスクハンディカムHDR-SD11です。よくできたハードで、画質や機能は非常に優れています。

しかし、カメラの操作はボタン・タッチパネル等を組み合わせて使う必要があり、デジタルテレビ同様の複雑怪奇さです。テレビに映すだけのためにも、SD/HD、4:3/16:9の切り替えなどの設定が必要となります。

次に、撮影した映像はPCやブルーレイレコーダーなどを介して保存する必要があります。テープの時代のように、安価なメディアに記録してそのまま保存しておく、というわけにはいきません。そのため、接続する機器やソフトウェアの使い勝手が重要となってきます。

本製品にはWindows用の独自ソフトが付属しています。我が家では、iMovie ’08を使ってMacに撮りため、必要に応じてYoutube・DVD・iPodへの書き出しなどを行っています。カメラから取り込む際には映像はサムネールで選ぶことができ、その後の編集・移動もスムーズに行えます。僕がMacを使っている最大の理由は、iMovieを使うためです。

そして、電機メーカーは部品メーカーへ

デジタル機器の要素技術は急速にコモディティ化します。例えば薄型大画面テレビの価格下落はあっという間に進み、電機メーカーはテレビ事業の利幅の薄さに苦しんでいます。また、ビデオカメラの画質や機能も頭打ちになりつつあり、遠からずコンパクトデジタルカメラのように差別化が困難になることが予想されます。

オーディオ市場について考えると、iPodは製品単体で圧倒的な付加価値があるわけではありません。iTunesを介したスムーズな音楽の入力と管理、制約の少ないDRM、周辺機器の充実など、音楽を入手し、管理し、聴くシームレスなユーザエクスペリエンスの構築に成功したことがiPodの成功要因です。

Appleはソフトウェアおよびユーザインタフェースに長けているために、優れた製品作りが可能となっています。日本勢を中心とした電機メーカーは、これらの点において、大きく遅れを取っています。デジタルテレビおよびビデオ関連製品においてそれは顕著です。

このままいくと、iPodの場合のように、Appleなどがビデオカメラやセットトップボックス、ビデオストレージなどの統合的で使い勝手に優れたコンシューマ向けソリューションを提供してくる可能性が大いにあります(Appleのホームメディアサーバが噂になっています)。そこでは、今の電機メーカーはディスプレイパネルや撮像素子といった部品を供給する役割に留まり、大きな利益を得ることは難しくなるでしょう。(テレビ製作向けのプロフェッショナル機器は、残るでしょう。)

ありえない、と思うかもしれませんが、オーディオについてすでに起こったことが、映像でも起こらないといえるでしょうか?