ライフログがないなら、当社への応募はできません

あなたが企業の採用担当者だったとします。ある年の採用活動で、大学時代の実績などをうまくアピールした二人の志望者がいます。あなたは二人の名前を検索してみました。二人ともブログを持っているようです。一人は、書いてある内容から判断するにエントリーシートや面接で言ったことはおおむね本当のようです。もう一人は、どうも面接で言っていたような活動をしている様子は見えてこず、遊んでばかりいるような様子が伝わってきます。

あなたは、二人のどちらを採用するでしょうか

このような事態はすでに現実のものだといってよいでしょう。例えば、ミクシィはSNSを始める前は求職サイトのFind Jobが主な事業でした。アメリカではLinkedInのようなSNSでの求職が一般化しています。A4 1枚のシートや数十分の面接で、はたしてその個人のことがわかるでしょうか。SNSで誰とつながっているかというような情報や、日々の活動の様子が可視化されるとしたら、エントリーシートをいかにうまく書いても仕方のない時代が来るでしょう。

もっと恐ろしい想像もあります。マイケル・ムーアのSiCKOでは、保険会社の“ヒットマン”達が申請者のカルテなどを調べ上げ、ささいな病歴の記載漏れなどを理由に支払いを拒否する例を多数紹介していました。Google Healthに見られるようなパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)が普及してくれば、おそらく保険加入時などにデータの提供が求められるようになるでしょう。PHRを持っていない加入者は、大幅に高額な保険料を求められるか、そもそも加入を認められなくなるでしょう。

ヨーロッパ復興開発銀行総裁を務め、今はサルコジ政権の下で政策提言を行うジャック・アタリという政治家・思想家がいます。夏に邦訳が出た最新の著作「21世紀の歴史 未来の人類から見た世界」において、これから訪れる激動の未来を予測してみせます。その内容も非常に興味深いですが、詳しくは以下のブログのエントリに譲ります(ウラゲツ☆ブログ「注目新刊:ジャック・アタリ『21世紀の歴史』作品社」)。

興味深いのは、様々な国家機能を民間機関が代替するために、ライフログ技術が用いられるという予測です。

自動車、洗濯機、オブジェ・ノマド(注:アタリの造語で、モバイル情報機器全般を指す)を引き継ぐ、経済成長の原動力となる新たな財が登場するが、これは国家のさまざまな機能を代替する「監視」機能をもつモノである。筆者はこれを<監視財>と呼ぶ。
(中略)
保険会社は、顧客に保険料(医療、失業、死亡、盗難、火災、災害に対する保険)を支払うように要求するだけでなく、保険会社のリスクを最小限にするために、顧客が設定された規範にしたがっているかを、顧客に対して実証するように要求してくる。こうして保険会社は、次第に地球規模の規範を強制するにいたる(食事のあり方、必要な知識、運転マナー、保身術、消費のあり方、生産のあり方)。(p.201-203)

このような社会は、一種のオーウェル的な悪夢の世界のように思えます。が、経済的便益が、そのような反発を上回るでしょう。教育、環境、医療、美容、就労など、人間の生活を形成する産業は、ライフログによる評価を導入する可能性が高いと考えられます。

3 thoughts on “ライフログがないなら、当社への応募はできません”

Comments are closed.