SFはその時代ごとの先端テクノロジーに刺激されるもので、この10年間についていえばマトリックスで始まったことからもわかるとおりメディア・テクノロジーが主な題材になってきました。
日本のアニメも例外ではなく、近年の話題作、電脳コイルやサマーウォーズ、そして今年の前半にフジテレビで放送され、攻殻機動隊S.A.Cシリーズの神山健治監督やキャラクターデザインの羽海野チカといった豪華なスタッフで話題になったこの東のエデンなどは、AR、オンライン・コミュニティ、ケータイなどがストーリーの鍵となっています。いずれも舞台は近未来で、想像を絶するようなテクノロジーでなく、今のネットやケータイの延長上の世界を描いていることが特徴です。
(以下、ネタバレ含む)
エデンシステム
ヒロイン達は、エデンシステムというケータイを用いたARシステムによるベンチャー事業を展開しています。作中でのエデンシステムとは、画像からの物体認識エンジンであり、主に人を認識してセカイカメラのようなタグの共有を可能にするシステムのようです。例えば登場人物の一人が主人公のタグを見ると、様々な変名が表示され、主人公への疑惑が深まります。
実は、画像認識ではないのですが、ちょうどこういうシステムを作っているところです。Twitterやセカイカメラのタグは、個人に付与されるようになるでしょう。今後の社会では、個人の信用を担保するためにライフログが用いられるようになると考えられますが、ARによって実空間でもそれが可視化されるでしょう。
すぐに思いつくのは、結活パーティーや合コンでは必須のアイテムになるでしょうね!
このような世界では、ライフログは個人の属性を表すファッションの一環となり、ライフログを実際にも見かけ上も綺麗に保つことが、社会生活において求められるようになります。
セレソンケータイ
主人公をはじめとして、本作には日本を変える救世主候補セレソンとして選ばれた登場人物がいます。彼らは、特殊なケータイのコンシェルジュサービスを通じて、金で可能なことは事実上なんでもできる権限を与えられています。おそらくVertuのラグジュアリーケータイやレクサスのカーナビに提供されているコンシェルジュサービスから着想を得たものでしょう。
なんでもできるコンシェルジュサービスは当然コストがかかるので一般的には難しいかもしれませんが、例えばマッチングサイトを通じて適当な専門家に適当なタイミングで仕事を依頼するサービスであれば、実現可能性はあるかもしれません。
バズ・マーケティング
最後に、このアニメは冒頭から主人公が素っ裸で記憶喪失で登場してみたりとマクガフィンが多く、またディテールに隠された多くのサンプリングや引用(例えば同じ監督の攻殻機動隊シリーズからのもの)など、エヴァンゲリオン以降のアニメにおけるバズ・マーケティングの手法を用いています。最終回が尻切れトンボで劇場版に繋げる作りなども、エヴァンゲリオンで見られたものです。
狙い通り、2ちゃんなどではかなり話題を呼んだようです。ここうした作りは、作品への興味を喚起する、あるいはアニメ視聴だけでは終わらず劇場版での収益化にも繋げるなどの効果はありますが、一方ではアニメファン以外への広がりをなくしてしまうでしょう。
単独の作品として十分面白いだけに、このような間口の狭さは残念な気もしますが、アニメって結局ターゲットの狭いマーケットなんでしょうね。
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