西澤 大

  ある日僕はトイレの個室に入っていた。その時、ふと壁の向こうから同級生の声がしたのである。自分が用を足しているその数十センチ前に、一枚の板を隔て知り合いがいる。その事実に気付いた時僕は、異様に興奮した。数mmの板が隔てるものとはかくも大きいものかと。それが建築というものに興味を持った経緯である。

もっとも今思えば、驚くべきは板一枚そのものの力ではなく、板一枚に視覚を遮られるだけで、相手との距離を違うものとしてしまう僕らの知覚のあり方であったのではあるが。

よって今現在、僕の興味は、いかにして様々な「板一枚」を日常の中から発見し、それがどこに「建ち」、どのように「住まわれているのか」という、まさに「建築」の有り様を考えることにある。

そんなわけだから、僕のマイブームがPCからケータイに、ケータイからゲームに移ろってきたことは些かも不思議ではない。まして情報技術や建築技術そのものでなかったことはシゴク当然なのである。

世界を“少し”ずらした眼差しで眺めること、人間は滅茶苦茶“不思議”であることに気付かせてくれた、とある偉大な漫画家に深い敬意を表しながら。


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