ユビキタスからEmbedded Webへ

ユビキタスの父Mark Weiser

ユビキタスの課題

最近、ユビキタス・コンピューティングという言葉をメディア等で耳にしましたか?日本でも2000年頃からユビキタスの研究は盛り上がりを見せ、2004年から国のu-Japan政策も始まり、僕達のような研究者は盛んにその可能性を追求してきました。

その頃考えられていた、あらゆるデバイスがネットワークに繋がり、環境がインテリジェントに振る舞うといったような世界は、まだ実現していません。90年代に盛んに研究されたマルチタッチなどのナチュラルインタフェースが最近になってようやく実用化されたように、ユビキタスの研究成果も実用化されるまでにはもう少し時間がかかるのでしょう。

ただし、ユビキタス環境が実現するうえでは、二点ほど大きな課題があります。まず、すでに多くの人が利用しているPCやケータイを除くと、ネットワーク接続機能のあるデバイスは広く普及していません。ハードウェアのリプレースはコストがかさむため、ソフトウェアやサービスと比べて普及に時間がかかります。また、より根本的な問題として、ユビキタスによる利便性が多くの人にとってわかりにくく、そのコストを納得させられるようなものでなかったことが挙げられるでしょう。

スマートフォンの隆盛

ユビキタス全般が足踏みをしている間に大きく普及したのが、iPhoneやAndroidに代表されるスマートフォンです。これらのスマートフォンは、電話というよりも、インターネットに繋がって様々なサービスやコンテンツを利用するデバイスとなっています。Web上のサービスやコンテンツこそが、これらのデバイスに価値を与えています。一方でユビキタス・コンピューティングのために開発されたプラットフォーム技術やプロトコルはあまり用いられていません。

スマートフォンの隆盛は、広告費などにおいても見ることができます。電通によると、2009年のネット広告費は横ばいながら、モバイル広告がシェアを拡大しています(電通:日本の広告費2009)。

スマートフォンにおいては、PC用にデザインされたサイトをそのまま利用することもできますが、やはり小さい画面では利用しにくく、サイトのレイアウトを調節したり、場合によってはWebからもアクセスできるにもかかわらず専用アプリケーションが提供される場合もあります。このように、プロトコルなどの基盤技術やコンテンツはPC用のWebと共通ながら、ユーザエクスペリエンスのレベルがフォームファクタに合わせて最適化されていることが、最近のモバイルの特徴といえます。

Embedded Web

ネット広告費においてみられたように、PCにおけるコンテンツ消費は頭打ちになりつつあり、それは利用者の接触頻度や時間を考えれば、大幅な伸びが期待できないことは明らかです。すると、いかに利用者との接点を増やすかが勝負になる。必然的に、ネットはスマートフォンを含むより多様なデバイスへの展開を求められるようになります。

最近スマートフォンを上回る注目を集めているデバイスが、iPadやKindleのようなタブレットです。また、SonyがGoogle、IntelとAndroidを搭載したTV(Google TV)の共同開発を行う(Tech Wave:Googleがソニー、Intelと協業「Google TV」で家電に進出へ)など、様々なデバイスにAndroidのようなWebKitブラウザとリッチなアプリケーション実行環境を備えたプラットフォームが広がりつつあります。以前の記事(ネットワーク化する家電―その成功のカギは?)で書いた通り、SonyはAndroidをアプリケーション・プラットフォームとして絞り込んできたようです。

多様なユビキタスデバイスそれぞれについて別々のソフトウェア・プラットフォームを用いてコンテンツを開発するのは無理があり、当ブログでも繰り返し述べてきた(5年前を振り返り、5年後のユビキタスを妄想する)通りAndroidおよびWebKit HTML 5のようなWeb系の技術がスタンダードになって行くと考えてよさそうです。Appleも負けてはおらず、iPhone OSを他の家電製品へも展開していく、または他社にライセンスするといった観測があります(Tech Wave:AppleがiPhoneの基本ソフトで家電業界に本格参入か)。

一方、スマートフォンにおいても見られたように、Web系の基盤でありながら、レイアウトやUIのようなユーザエクスペリエンスは、それぞれのデバイス毎に異なったものが提供されるでしょう(例えば電子書籍コンテンツなど)。あるいは、そもそも単独でなく多数のデバイスを利用するようになることで、ユーザエクスペリエンスがそれらのデバイスにまたがったようなものになることもあり得るでしょう。

このようなEmbedded Webが、2010年代のネットの研究、開発、デザインの主なターゲットになってくるものと考えられます。


参考リンク:
AV Watch:本田雅一のAVTrends:ソニー+インテル+グーグル = ? ?Google TV報道から考えるソニーのテレビの今後
アゴラ:Apple と Googleの最終戦争 – Sonygleの誕生か – 渡部薫

4 thoughts on “ユビキタスからEmbedded Webへ”

  1. Link: Studio+i ユビキタスからEmbedded Webへ – ユビキタスの課題最近、ユビキタス・コンピューティングという言葉をメディア等で耳にしましたか?日本でも2000年頃からユビキタスの研究は盛り上がり… http://tinyurl.com/y8zy5tt

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